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完成しました、捏造長編第6話!
最終話に向かって駆け足で進んでいきます!(←ようは展開がハリケー(ry))
続きからどうぞ♪


あと、前の記事でちょろっと言ってました、絵茶の件ですが、
日曜の午後3時くらいからできたらなー…と思います!
開催の時間になりましたら、このブログにURL貼りますので、
お暇があればぜひ参加してくださいww

抱きしめると、細い体は体重を預けてきた。
もう、彼は以前の彼ではない。
もう、彼は僕だけのモノ。
「ジタン」
「クジャ…っ」
名を呼べば、狂ったように泣き始める。
それでいい。
もっと狂ってほしい。
狂気に沈めて、もう二度と出てこれないようにして。
僕と共に、この世界を滅ぼす死神になろう。


「この先だ。この砂漠を抜けた先に、もうひとりの変換者の城がある」
クジャ達は砂漠を駆け抜けていた。
砂嵐が体にぶつかって痛い。
しかし、立ち止まるわけにはいかなかった。
こうしている間にも、ジタンがどんな目に遭っているか。
急がなければ。
変換者は何だってできる。
「…こんなとこまで闇が来てるぜ」
流砂を見ると、吹き上げるのは砂煙ではなく、闇の粒子だった。
ここは高台だから、地上に出てこれていないだけで、おそらくここより低い土地は闇で覆われているのだろう。
「――うわっ!」
「ティーダ!」
砂嵐のせいで足元が見えなかったのか、ティーダが足を滑らせて流砂に落ちそうになる。
すんでのところでバッツが腕を掴み、引き寄せた。
「大丈夫か、ティーダ」
「びっくりしたぁ…ありがとッス、バッツ」
「ちゃんと歩け。流砂にはまって遅れでもしたら、ジタンがどうなるかわからない」
スコールが振り向かずに言った。
その言動に、バッツの眉根が寄せられる。
「スコール、そんな言い方はないだろ。ティーダの心配を――」
「だいじょぶッスよ、バッツ」
「ティーダ…?」
「いいんだ」
ティーダはバッツの手を引いて、スコールに追いつこうと歩を早めた。
「スコールさ、ジタンのことすっごく心配してるから」
そう言う彼の表情は、横に跳ねた金髪に隠されて見えなかった。
しかし、とても悲しそうな声だった。
「…オレなら、」
ちゃんと、ティーダを見てやれるのに。
どうしてそこまでスコールを追いかけられるのか、わからなかった。
ただひたすらな彼の姿に、それ以上の言葉は出てこなかったけれど。

砂漠の先には、荒野が広がっていた。
その中心に、大きな樹に包まれた城が建っている。
周りには、生気のない偽造物。
最下層には、闇が溢れていた。
「ここが、変換者の城――」
「ジタンはあそこにいるんだな」
歩き出そうとしたスコールを、クジャが止める。
「勝手なことをしないでくれるかい?キミだってわかるだろう。この先は何があるかわからない」
「だが、どうする。何があるかわからないからと言って立ち止まってるわけにはいかないだろう」
「とりあえず落ち着いたらどうだい。――お出ましのようだよ」
上空の空間が歪む。
「ようこそ。僕の城へ」
その歪みから、影が現れる。
歪みが消えると、その姿がはっきりと見えた。
「――!?」
そこにいたのは、
スコールたちの隣にいる変換者と瓜二つの、銀の青年。
その青年は、ジタンを抱きかかえていた。
「ジタン!」
「今の彼に声は聞こえないよ。残念だったね。孤高の獅子」
笑い声が響く。
今すぐに斬りかかってやろうかと思ったが、ジタンが捕らえられているので下手なことはできない。
クジャが忌々しそうに舌を打って、呟く。
「やっぱりキミかい…アナザー」
すると、アナザーと呼ばれた青年はクジャを見下した。
「アナザーとは心外だね。僕もキミさ。キミと共に、キミと同じように造られたんだから」
「造られた…!?」
クジャ以外の三人が驚く。
「おや、知らなかったのかい?なら教えてあげるよ…」
アナザーは愛しげにジタンの頬を撫でる。

「変換者――僕と、そこにいる僕、そしてジタンは造られた命なんだ」

「“強制職業変換”が変換者にしか使えないのは、僕らが造られたから。造られた者にしか、この力は備わらないんだよ。変換者は狂気を受け入れるために造られ、改変の刻に神竜に力を与え、死神と成るべくしてこの世に誕生する――」
次々と語られる真実に、誰も口を開くことができなかった。
クジャも、怒りや嫌悪を押し殺すように黙ってしまっている。
「なのにキミは狂気から抜け出してしまった…なんて愚かなんだ…狂気と共になければ、キミの存在理由はなくなってしまうのに」
「…ジタンを返してくれるかい?その子は狂気に溺れてはいけない」
風が吹いて、銀髪を揺らす。
広い荒野に笑い声が響いた。
「狂気に溺れてはいけない?キミがそんなことを言うのかい?」
アナザーは全員を一瞥して、大きな声で言う。

「ここから逃げ出し、狂気を忘れてしまったジタンに狂気を思い出させようとそこの獅子とジタンを襲って、それに失敗したからってジタンと親しくなってまで狂気に陥れようとしたキミが――!」

「何だと――!?」
スコールがクジャを見やる。
クジャは何も言わなかった。
「ジタンに信用してもらうために“強制職業変換”を行って自分の命がなくなってきたから、ジタンを喰らおうとしたんだろう?そうして一緒になって自分が狂気に染まれば、永く生き続けられるうえ、変換者としての存在理由もなくさずに済むからねぇ…」
何を言われても、否定をしなかった。
ただ押し黙って、クジャはジタンを見つめていた。
それに気づいたアナザーが、ジタンを起こす。
「ほら、ジタン。キミを狂気に連れ戻そうとしたクジャに挨拶をしておあげ」
「クジャ…?」
目をこすったジタンは、アナザーが指さす方向を見る。
クジャと目が合った。
しかし、すぐにそらされる。
「何言ってんだ?クジャはお前だけだろ…?」
「――!!」
虚ろな目をしたジタンが、アナザーにしがみつく。
何とか押し殺していたであろう感情を暴走させるには、それで充分だった。
心が乱れていくのが目に見える。
必死で隠そうとしているようだけど、それも無駄。
そう。
人の心とは、脆いもの。
今のジタンには何気ない一言だっただろう。
しかし、クジャにとっては今の言葉の衝撃は大きいはずだ。
「これでも取り返したいって言うなら、僕の城においで。もっとも…たどり着ければ、だけど」
笑いながら、アナザーはジタンを空間に座らせる。
すると、一瞬でスコールの目の前に移動して、彼の瞳を覗き込んだ。
「キミは許せるかい?」
「…何の話だ」
「そこの僕のことさ。キミの大切な人の心に影を落とし、そのうえ魂を喰らおうとした奴を、そう簡単に許せるわけがないと思うんだけど、」
言葉を遮るように、ガンブレードがアナザーの首筋を掠める。
うすい皮が切れて血がにじんだ。
「…そう。それでいいんだよ」
アナザーは再び滞空し、ジタンを抱える。
「怒りをぶつけるんだ。遠慮することはない。だって、全てが事実なんだから――」
高笑いと共に、アナザーとジタンが消えた。
「――おい」
呆然としたままのクジャの肩を掴んで、スコールは自分の方を向かせた。
「やっぱりあんたが俺とジタンを襲ったのか」
「…」
「あの日が、どれだけジタンの心に影を落としたか、知ってるのか!」
「わかってるさ」
「じゃあどうしてジタンの傍にいれた!?変換者だの意味のわからないことばかり言って…あいつがどれだけ苦しんだと思う!?あいつはお前を信用していたのに!!」
「…っ」
「スコール!」
「黙れ、ティーダ!」
「――っ!」
ティーダがスコールを止めようとしたが、強い力で押し返される。
ふらついたところを、バッツが受け止めた。
「どうしよう…どうしよう、バッツ…!」
抱きとめた体は震えていた。
声も、今にも泣きそうで。
彼の持つボールが、ぐちゃぐちゃの色を映して手の中で暴れている。
「クジャが…スコールが…壊れちゃう…!!」
暴走の原因は、心の乱れ。
不安定な精神の動きが、心を乱して、壊す。
このままでは、アナザーの思惑通りに事が進んでしまう。
「あんたをあいつの近くには置いておけない!ジタンは俺が助けに行く!!」
「何だと――」
「あんたはジタンに必要とされてなかったじゃないか!!」
「……っ!!」
そう。
存在を否定された。
今、ジタンが肯定している“クジャ”は、あのアナザーだけ。
自分は、もう、必要とされていない。
その通りだった。
「あんたがいたんじゃ、ジタンは闇に追い込まれていく!!」
その一言に、ボールの中の色が混ざる速度が速くなった。
感情がないまぜになって、暴れている。
今にもボールを破り、弾けそうだった。
「もうやめるッス!スコール!!」
ティーダが駆け出し、スコールの腕にしがみつく。
「これ見て……っ…もう、やめないとクジャの心が――」
「黙れっ!!」
さらに強い力で突き飛ばされ、ティーダは地面に転げた。
しかし、すぐに立ち上がって、彼はもう一度スコールを止めようとする。
「ダメだって!このままじゃ、きっとスコールの心も…!」
「五月蝿い!!知った風な口を利くな!!」
スコールがティーダの服の襟首を掴む。
「いつも人の気持ちも知った気でものを言って…耳障りだ!」
容赦なく浴びせられる言葉に、ティーダの目が見開かれる。
「球戯士だか何だか知らないが勝手に人の心を読むなんて」
その先に続く言葉を、ティーダは直感してしまった。
やめて、
やめて、スコール、それ以上は、

「気味が悪い!俺に近づくな!!」

ボールが手から落ちて、転がっていく。
それはバッツの足元で止まった。
色が目まぐるしく変わる。
赤くなって、青くなって、赤くなって、青くなって、
最後には、
「 あ 、 」
真っ黒に染まって、動かなくなった。
「す、こ……」
ぼろ、とティーダの目から涙が零れた。
「あぁ、あ、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ティーダ!!」
ティーダは頭を抱えて苦しんで、急に駆け出した。
彼の行く先に、闇が待ち構えて手を伸ばす。
「ティーダ!ダメだ!戻って来い!!」
バッツの制止も聞こえない。
ティーダは彼を迎える闇に突っ込み、消えてしまった。
「ティーダ!!!」
バッツが手を伸ばしても遅かった。
闇は跡形もなく消え去って、ティーダの姿もなくなっていた。
絶望と怒りがこみ上げてくる。
足もとのボールを拾って、スコールに掴みかかる。
「スコール…お前、なんてこと言ったんだ!!」
「五月蝿い!はな――」
「放すもんか!スコール、落ち着けよ!ジタンを助けるんじゃなかったのか!」
「――っ」
「ここで言い争っててもどうにもならない!それに…クジャがいないとできないことがあるかもしれないだろ!」
「なんでこいつを――!」
「お前はいつも冷静で、状況をきちんと判断できてた。ティーダの前でだって、そうだったんだろ?だから、ティーダはお前と…ジタンとクジャを信じてたんだ!!だから争うのをやめて、早く助けに行かせたかった!何より――みんなの悲しい顔を見たくなかった!そうじゃないのか!?」
「バッツ…お前、どうして…」
「…こんなにティーダのことを知ってるか…ってか?」
バッツはスコールを掴んでいた手を放した。
「旅をしてると、いろんなところに行って、いろんな人に会える」
暑いところも寒いところも、高いところも低いところも。
すべてを回って、それでも世界は広くて。
「偶然立ち寄った村に、あいつはいたのさ」
家の裏で的に向かってボールを蹴り続ける少年。
どうしてそんなことをしているかを尋ねてみると、少年は笑って答えた。
“モンスターっていうのを倒すと、みんなが笑うんだって親父が言ってた!オレさ、みんなの悲しむ顔、見たくなくて…だから、オレがモンスターを倒すんだ!”
その村は、有能な自警団と国家軍によって守られ、モンスターの襲撃を受けずに済んできたらしい。
村人たちはそういった団体の働きの上で自分たちの安全が保障されていることを常に感謝し、生活していた。
安全は安心を生み、安心は笑顔に繋がる。
少年はそう知って、自分もいずれは村のみんなを安心させられる力をつけるんだと訓練を続けているらしい。
「オレがあったのがティーダだって気づいたのは、ついさっきさ。でも、驚くほど変わってなかった。あいつは…人の心がわかるからこそ、励ましたり、一緒に悲しんだり、元気を分けられるんだ」
バッツは真っ黒に染まったボールを見つめる。
「ひとつだけ、球戯士が、恐れることがあるんだ」
少年のことを知りたくなって、球戯士について調べたこともあった。
だからわかる。
「ひとつだけ、どうしても怖いもの」
それもあの時から変わってなかったんだな、と呟いた。
絶望の色が脳裏に蘇る。
「それは――自分の能力を拒絶されること」
気味が悪い。
近づくな。
吐き捨てるように言われる言葉に、球戯士の心はいとも簡単に崩れさる。
「誰だって、自分の心を読まれるのは気持ち良くない――それを、あいつらはちゃんと知ってる。だから、普通は能力を使ってることを隠して生活してるんだ」
拒絶されないように。
嫌われないように。
独りに、ならないように。
恐れながらも、彼らは人の心を癒し、力になろうとする。
「でも、どうしても隠していられない時がある――それだけ、あいつは必死でスコールたちを止めようとした。ジタンを助けて、全員が、無事に帰れるように」
なのに。
なのに、ティーダは消えてしまった。
溢れだす怒りを、全て目の前の二人にぶつけてしまいたかった。
でも、きっとティーダはそれを望んではいないから。
今、オレがするべきは。
「…ジタンを助けに行くぞ。そして――全員で帰ってくる」
スコールとクジャの背中を押す。
促されて歩き始めたクジャが、城を見つめた。
そして、すぐに立ち止まる。
「待って」
「どうした?」
「声が――聞こえないかい?」
そう言われて、耳を澄ませてみる。
「…何も聞こえないけど」
バッツは首を傾げた。
スコールを見やるが、どうやら彼にも聞こえていないらしい。
しかし、クジャはその音を拾う。
見えない糸に引かれるように、彼は歩き出す。
「呼んでる…」
その瞳に、灯が戻っていく。
「ジタンの声だ…!」
言うが早いか、クジャは魔力を集めて宙に浮き、真っ直ぐ城へと向かう。
それを追って、スコールも走る。
バッツも遅れないようについていこうとしたが、ふと、足を止めて振り返る。
闇がうごめいて、手招きをしている。
「…生憎、そっちに行く気はない」
伸びてきた闇を振り払う。
「ティーダをどこに隠そうとも、きっと輝くから、見つけられる」
言い聞かせるように言って、自分も城へと向かう。
闇は、恨めしそうにそれを見ていた。
荒野を満たし始めた闇の塊。
その端からだいぶ離れた谷に、闇の溜りができていた。
中心には、闇ではない、影が眠っている――。


アナザーの城の城門付近。
偽造物――イミテーションたちが、無限に湧き出て襲い来る。
倒しても倒しても数は一向に減らず、まともに相手をしていたらこっちがもたないだろう。
「キリがないな――!」
バッツがホーリーでイミテーションを吹き飛ばす。
光はイミテーションを消し、輝く道を作った。
「二人とも!そこ通って中に行け!」
「バッツ、お前は!?」
「オレは大丈夫!簡単に負けやしないって!」
いいから早く、と促すと、二人は軽く礼を言って奥へと進んでいった。
それを見送って、イミテーションたちに向き直る。
生気のない視線が自分に集まってきた。
「心配されるまでもねえんだけどな。…仕方ないか」
空間を掴み、剣を取り出す。
「スコールには本気で戦ってるとこ、見せたことないもんな」
紫色の刀身が怪しく光る。
粒子で形作られたそれは、二振りの長剣に分かれた。
餓えた獣のように、粒子がイミテーションに向かって伸びていく。
「かかってこいよ。お前たちの動力、オレが食ってやる」
低い声に共鳴し、刀身が震えた。
怪しく舞う粒子を見て、イミテーションたちは微かに体を強張らせたように見えたが、それを吹き飛ばすように吠える。
何百、何千というイミテーションの群れが、バッツに襲いかかった。


「ジタンの声が聞こえるのはどっちだ」
「こっちだよ。黙って僕についてきてればいい」
城の中も、イミテーションで溢れていた。
時には倒し、時には攻撃を避けながら、声を頼りに突き進む。
一枚、また一枚と扉をくぐり、奥へと歩を進めた。
迫りくるイミテーションをガンブレードが打ち上げる。
二、三発さらに打ち込み、手足の自由を奪った。
「今だ!」
そこから連携を繋げるため、パーティメンバーに声をかける。
しかし。
「……」
返事が、返ってくるわけがなかった。
連携が、繋がるわけがなかった。
今のはクジャと連携をしようとしたのではない。
自由に動けなくなったイミテーションが地面に落ちて、醜くのたうち回る。
今、自分は誰と連携をしようとした?
「…忘れたのかい?それとも、知らなかった?」
クジャが呆れたように言う。
「自分が彼を突き放したというのに」
「…な、に…」
俺が、突き放した?
そう言えば、あいつはいつからいなかった?
思い出そうとしたが、記憶が混同してよくわからない。
さっき、アナザーが去った後。
溢れる感情をそのままにクジャにぶつけ、バッツに止められた。
…違う。
その前だ。
自分の感情だけをぶつける俺を止めようとしたのは?
必死な声が聞こえたような気がした。
それはあいつの声だった。
あいつ?
あいつって誰だ?
誰だ?
誰だった?
眩しい笑顔が見えた気がしたが、すぐに掻き消された。
「…う、」
頭がぐらぐらした。
自分の記憶すら不明瞭になって、何を思い出そうとしていたのかも忘れてしまう。
でも、
でも、今すべきことは。
「ジタンの居場所を…」
「…」
「助けるんだ…」
そうだ。
俺が守ってやらないと。
あの日のように、彼の心に影の落ちることがないように。
感情に急かされて、命の危機に直面してしまわないように。
「…そんなことでどうするんだい」
クジャがため息をついた。
そう思ったときには、スコールは部屋の柱にリングホーリーで縛り付けられていた。
「何をする…放せ!!」
「嫌だよ。そんな不安定な状態で何ができるというんだい?」
見下してくる瞳は、ひどく冷たくて。
「耳を澄ませてみるんだね。キミを本当に必要としている声が聞こえるかもしれない」
「どういうことだ!」
「…キミが守るべきはジタンじゃないんじゃないかっていうことだよ」
それだけ言って、クジャは奥へと続く扉を開いてその中に消えた。
扉があった場所に鉄格子が下される。
それと同時に、体を柱に縛り付けていたリングホーリーがはじけて消えた。
イミテーションの群れに向かいガンブレードを構え、目を閉じる。
未だ記憶は濁り、ごちゃごちゃと不明瞭なままだった。
「俺の、守るべきものは――」


「…へえ、ここまで来れたのかい」
部屋の中央に置かれた椅子に座った城の主が笑う。
「ジタンはどこだ」
問うと、アナザーは部屋の右半分を隠すほどの大きなカーテンを引く。
その向こうには格子で囲われた牢屋があり、ぽつんと置かれた椅子に、ひとりの少年が腰かけていた。
彼が首を微かに動かすと、金糸がその肩を滑り落ちる。
「ジタン!」
駆け寄ろうとすると、足もとに電撃が走り、足止めされる。
舌打ちをして振り返り、アナザーを睨んだ。
「そう簡単に返すわけがないだろう?ジタンは僕と一緒にこの世界の死神になるんだ」
「そんなことはさせない。ジタンは――この世界で生きるんだ」
「どうしてそんなことを言うんだい?ジタンの存在をこの世から奪おうとしたのはキミだろう?」
「違う」
クジャははっきりと否定した。
ジタンとスコールと、その仲間を襲ったのは。
「キミだよ、アナザー」
思い出していた。覚えていた。
目の前に広がる鮮血。
転がる幾つもの亡骸。
「…じゃあ、どうしてスコールの前で否定しなかったんだい?」
「僕も、ジタンを狂気に引き戻そうとした。それは間違いじゃない」
それに、とクジャは顔を上げる。
まっすぐ視線を向かわせると、紫の瞳と視線が交差する。
「“アナザー”…それはもう一人の僕、ということだろう」
もしアナザーがいなかったなら、自分が動いていたかもしれない。
もしもを考えると、可能性はいくつも出てきて否定しきれない。
何より、
「…わかったんだよ。独りになって」
隣のぬくもりの大切さが。
僕が奪おうとしていたものの尊さが。
彼が与えてくれたものの温かさが。
「喰らいたかったんじゃない」
一緒になりたかった。
放さないように縛って、ずっと隣に。
でも、それは魂ではなくて。
喰らいたいという気持ちではなくて。
いつしか、かけがえのない存在へと変わっていた少年が、
「傷付くのが、怖かった…失うのが、拒絶されるのが」
言いながら、心の中で自嘲した。
怖いだって?
一度もそんな気持ちを持ったことはなかった。
恐怖は、いらない感情だったから。
ああ、面倒だ。
すべて認めてしまおう。
あの時恐れたのは、拒絶。
恐れたのは…
「ジタンが、大切だから」
指を鳴らして手を伸ばすと、一振りの剣がその手に収まる。
剣とおなじ黒色の鎧を纏って、クジャの姿が“暗黒騎士”へと変わった。
一気に肉薄し、剣を振り下ろす。
しかし、それと同時にアナザーも姿を変え、漆黒の剣で振り下ろされた剣を受け止めた。
間髪を入れずクジャが聖騎士へと変わり、今度は聖なる剣で切りかかる。
「そんなに“強制職業変換”を使っちゃって大丈夫なのかい?」
剣同士が火花を散らし押し合う。
アナザーの声も金属音も耳障りだった。
それに、体だって不調を訴えている。
「悪いけど」
足に力を込め、アナザーをぐらつかせる。
弾かれた剣同士が甲高い音を立てた。
「ここで退くわけにはいかないんだ!!」
振り下ろした聖なる剣は光をまき散らしながら相手の銀髪を梳く。
「キミも奥底に眠る感情に従うといいよ。あの獅子のようにねえ!」
同じように突き出された剣を紙一重でかわした。
「簡単だったよ。もう少し手こずると思ったけど…素直にかかってくれた」
「やっぱり術をかけてたのかい?どうりで様子がおかしいと思っていたよ」
「おかしくなんてないさ。あれがあの獅子の本心だよ。ジタンを助けたい。それ以外はどうでもいい――ってね」
闇が剣を絡めとる。
その闇が腕に達する前に手を放し、光弾で反撃した。
「あの太陽は――ティーダはどうなったんだい?」
「さあねぇ…今頃闇に呑まれてるんじゃないかい?」
彼の心が壊れてしまっていれば、闇は容易くそこに侵入するだろう。
クジャは舌打ちしてアナザーとの距離をとる。
「おや、あの太陽が心配?」
からかうようにアナザーが言うので、クジャは鼻で笑って否定する。
「違うよ。…あの銃士に、自分のしたことの始末をつけてもらおうと思ってね」
もう一度暗黒騎士に変換し、一気に肉薄する。
剣と剣がぶつかり合って、火花が散った。
競り合いはしばらく続き、二人がいったん距離を取ろうとした。
そのとき。
「――っ!?」
地面が揺れた。
地の底から響く震動は、ただの天災ではないように感じられた。
何かが引きずり出されている。
そんな感じだった。
「…神竜だ」
アナザーが空を仰ぐ。
「神竜がこの世に現れようとしているんだ…!もう世界の運命は決まった…!!」
そう言う彼の体は透け始めていた。
それは、神竜に力を与える存在となるべく、体が書き換えられている証拠だった。
「――させないよ!」
封晶師に変換したクジャが、透明な石をアナザーに向かって投げ、その体を、魂を留める。
石に向けて突き出した手で拳を握ると、その石は粉々に砕けた。
変換者が神竜に取り込まれたら、たった一人でも強大すぎる力を引き出させる媒体となってしまう。
アナザーが取り込まれることはもうなくなったが、安心してはいられなかった。
「ジタン!」
牢屋の中の少年は、椅子から崩れ落ち、息を荒げていた。
彼も変換者だ。
放っておいたらアナザーと同じようになってしまう。
それは自分も同じなのだが、今はジタンのことしか考えられなかった。
「ジタン、大丈夫かい?」
「く、じゃ…?」
助け起こすと、その眼はちゃんとクジャを認識してくれた。
それに安堵の息を漏らし、ほほ笑む。
「さあ、ここは危険だ。帰ろう」
このままでは神竜の気に中てられてしまう、と立ち上がるよう促した。
しかし、ジタンは首を振る。
その顔は血の気が引いて真っ青だった。
「無理だ…帰れるわけない…!!」
頭を抱えてうずくまってしまった。
顔を覗き込むと、目には涙。
「ジタ――」
「オレが…スコールを殺そうとした…!オレがみんなを殺したんだ…!!」
彼の口が紡いだ言葉に目を見張る。
そんなはずはない。
だって、あの日彼らを襲ったのはアナザーだから。
鮮明に覚えている。
思い出した。
狂気に引きずり込もうと、彼の大切な仲間を殺してみせて。
僕は、目の前の同位体を止めることさえできなかった。
そう。
あれは僕がやったも同じ。
しかし、僕とアナザーの仕業であって、ジタンは一切関与をしていない。
なぜなら、僕がジタンを捨てたから。
彼は自分が変換者だということすら知らなかったんだ。
「――ジタン、しっかりするんだ!」
「嫌だ…戻れない!オレが…オレが……!!」
ジタンの肩を掴もうとして、その輪郭が消えかかっているのに気づく。
それは神竜がジタンを取り込もうとしているということ。
今の彼は、狂気に囚われてしまっている。
おそらく、アナザーの洗脳で彼は苦しめられているのだろう。
震える体を包み込んで、努めて優しく囁く。
「大丈夫…落ち着いて、ジタン」
神竜の手が伸びてくるのを感じる。
しかし、焦ってはいけない。
洗脳を解くのを焦っては、精神を崩壊させかねない。
「キミはそんなことをしてはいないよ」
キミは、そう。
まさに太陽に恥じないよう生きてきた。
僕とは違った、照らされた道。
「お眠り。すべてを忘れて…いらない情報を切り捨てて。嘘は…いらないよ」
呪文を唱えると、ジタンはすぐに眠ってしまった。
後は、彼に纏わせた魔力が自然に洗脳をといてくれる。
とりあえず脱出しなければ、とジタンを抱えると、壁が破られて何者かが侵入してくる。
「クジャ!」
名前を呼ばれてそちらに注目すると、スコールを抱えたバッツが駆け寄ってきた。
「何かスコールが倒れててさ…それについてはよくわかんないけど、外がもうヤバいんだ!闇が城を覆い始めてる!!」
窓の外を見てみると、確かに闇はすぐそこに迫っていた。
逃げ道も、完全にふさがれてしまったようだ。
抜け道は一切ない。
クジャはともかく、バッツが空を飛ぶことはできない。
何とか全員で脱出する方法は。
必死に思考を巡らせたが、答えは出てきてくれなかった。
焦りかけると、天井が破壊され、黒い竜の頭が見えた。
「――早く乗るがいい。時間がない」
大型の竜の背に乗っていたのは、ゴルベーザだった。
頷き合ったクジャとバッツは竜の背に飛び乗る。
黒竜は雄叫びをあげ、闇を退かせた。
間を空けずに羽ばたき、飛びあがる。
闇が追うように伸びてくるが、割って入ってきた白い竜に行く手を阻まれた。
二頭の竜は寄り添うように飛ぶ。
どうやらゴルベーザの城に向かっているようだ。
「残された時間は少ないようだ。ひとまず城に戻り、態勢を整えるぞ」
気を失っている二人を見やり、ゴルベーザが言った。
二人に外傷はなく、顔色も悪くないのが救いと言ったところか。
「刻はもう第三楽章――最終楽章で、僕が譜面を変えてあげよう」
腕の中の少年の金糸を撫でて、クジャが呟いた。


一層濃く集まった闇が、形を成していく。
それはどんどん大きくなって、天へと届くほどになろうとしていた。
「もう…オレ、は…もう…」
その中心では、絶望の涙が流されていた。











急展開です←
ティーダはどこにいったのやら…って、カンの良い方はお気づきですねw(←たぶんバレバレ)
最終話に向けてちゃんとネタを練らねば…!頑張ります!!
では、読んでいただきありがとうございました!!

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プロフィール
HN:
HP:
性別:
女性
職業:
学生
趣味:
絵描き・ゲーム・パソコン
自己紹介:
好物(腐向け注意)
DF/F→クジャジタ、スコッティー(8×10のことです)
   セフィクラ
日/和→閻鬼、太曽、妹子、入鹿、カケラさん
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