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タイトル決まりました!!
辞書引いただけですが(汗)

続きに3話目ですw
うぼのばのターン!!←






隣で、布の擦れる音が聞こえた。
首だけ動かしてそちらを見ると、金髪の少年が、その白い肌に月の光を受けていた。
「…眠れないのかい?」
声をかけると、少年は弾かれたようにこちらを向いた。
「喉渇いただけだよ。心配すんなって」
そう言って微笑んだ少年は、宿の部屋にそれぞれ備え付けられている簡素な洗面所へと向かった。
喉など、渇いていないだろうに。
少年は今までまともに寝れていないのだろう。
眠たそうな目をしていた。
辛い過去があって、思い出して。
それでも、自分より僕を思いやって気丈に振舞う。
並みの人間にできたことだろうか。
深い哀しみと苦しみを隠そうとするその姿は、何とも健気で、儚く見えた。
少年の意志を尊重し、深く詮索することはやめておこう。
そう思ってもう一度眠りにつこうとする。
「――っ!」
そのとき、心臓を鷲づかみにされたような激痛が走った。
鼓動のリズムが乱れ、呼吸が困難になる。
「…は……っ…」
「クジャ!?」
胸をおさえて痛みに耐えていると、少年が駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?今、宿の人を――」
「…大丈夫、だよ、ジタン…」
駆け出しそうな少年を制そうとその手に触れる。
途端、紅い狂気が体中を駆け回った。

イタイ、イタイ、
早クシナイト、死ンデシマウヨ?

ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
その狂気を抑え込むよう、歯を食いしばる。

まだ、まだそのときではない。
まだ手遅れにはならない。
一歩間違えれば、今までが水の泡さ。

そう言い聞かせると、狂気は少しずつ、退いていった。
「…もう、本当に大丈夫だから」
安心して、と少年の額に唇を落とすと、お返しは意識を失うほど強烈な拳だった。


買い出しに向かったスコールを待ちながら、ティーダはボールを蹴っていた。
天気は快晴、そう思うとボールは黄色に、黙って買い出しに向かったスコールのことを考えると、ボールは赤に色を変えた。
球戯士のボールは、普段は持ち主の感情にあわせてその色を変える。
考えるのが面倒になって適当にボールを蹴っていると、タイミングがずれて蹴りそこなってしまった。
転がったボールを拾うと、ボールは静かに青色に変わった。
青は、悲しみの色。
「…やっぱり、ボールに隠し事は無理ッスね」
クラウドの依頼を受けたあのときから、胸のもやが取り払えない。
悲しそうなスコールの顔を見るのも辛いし、何より、自分の知らないことでスコールが苦しんでいるという事実が悔しい。
せめて自分がそのことを知っていたならば、スコールを救えただろうか。
悲しみから、解放することができたのだろうか。
考えるたびに、今手に持っている心を映す鏡は、その青を深めていった。
「…どうした」
頭上から、声。
見上げると、そこにはスコールがいた。
彼の視線は、手元のボール。
球戯士のボールが感情によって色を変えることを、彼も少しは知っている。
「何でも、ないッスよ」
知られたくない。
誤魔化さなきゃいけない。
「ただ、ボールを上手く蹴れなくてちょっと落ち込んだだけッス」
悟られないようにと、精一杯笑顔を見せる。
それでも色を変えてくれない鏡を、必死で隠しながら。
しばらくは眉をひそめていたスコールだったが、ひとつ溜息をついてティーダの手を引いた。
「へ?す、スコール?」
「座れ」
近くにあった花壇の縁に、二人は腰を下ろした。
「…ある男の話をしてやろう」
スコールは清々しい青空を見上げた。
「男には、仲間がいたんだ。大切な――仲間が」
どんな逆境も乗り越えられたのは、仲間のおかげだった。
依頼を終えた後の休息は、何よりの楽しみで。
賑やかで楽しい時間が、男の日常を彩っていた。
しかし。
その日々は終わりを告げた。
名も知らぬ、銀の影によって。
仲間が、どんどん崩れ落ちていく。
紅い溜まりが、どんどん広がっていく。
男は絶望していた。
このまま、日常どころか、自分の命も終わる。
仲間を守れなかった。
悔しさに目の前がかすむ。
その時。
男は見た。
仲間の中で一番若い、まだ経験も浅い少年が、影にひとりで突っ込んでいく!
止めようとしても、声が出なかった。
殺意が振りかぶられて、それは迷いなく少年に襲い掛かる。
反射的に、男はふたつの影の間に飛び込んでいた。
目の前に紅が広がり、意識がものすごい速さで遠のいていく。
最後に見たのは、仲間の少年の絶望に満ちた顔だった――。

「死んでしまったと思っていた。でも、少年は生きていてくれたんだ。そして、男は今、再び少年を守るべく足を進めている…」
「スコール…」
言いかけた言葉を、ティーダは飲み込んだ。
酷似しすぎている。彼自身と。
ある男とはスコールのことで、少年は、今守るためにと探している少年。
九分九厘彼らを指している。
わかったのに、ティーダは声に出せなかった。
知れば取り払われるはずだったもやとは違う、もうひとつのもやが胸を満たして。
でも、今度は簡単に振り払うことができた。
「じゃあ、早く見つけないとッスね」
依頼と、割り切ることで。


「クジャ、本当に大丈夫か?」
「ああ」
「依頼、受けるのやめたっていいんだぞ?」
「大丈夫だよ。依頼、受けとかないとお金がなくなるからね」
そう言ってクジャは依頼内容に目を通す。
ランクはA、依頼主は北に城を構える皇帝だった。
それだけあって、報酬は特上の宝飾品・プチクリスタルと書いてある。
内容は人探しとだけ簡潔に書いてあり、詳しくは北の城で説明されるようだ。
「行こう。ジタン。早くしないと夜までに向こうにつけなくなってしまう」
金糸を軽く撫でて、クジャはギルドの扉を開いた。


『機械化進行度――9%』
『異常無し、異常無し』


北と聞くと、寒そうで、花の開花も遅いから、ちょっと寂しい風景になるかな、とジタンは考えていた。
しかし、それも先ほどまでの話。
「すっげえ…!」
小さく見え始めた、依頼主の皇帝が住む城は、緑に覆われていた。
よく見ると、赤や白の塊が見える。
どうやら薔薇が植わっているようだ。
「早く近くに行って見てみたいな…急ごうぜ、クジャ!」
「はいはい…そんなに急いで、転んでも知らないよ?」
先ほどまでは依頼を受けることすら躊躇っていた少年は、その面影を欠片も残していなかった。
そのうえ、自分を急がせようとしている。
まったく、先ほどまでのしおらしい彼はどこへやら。
「――うわっ!!」
「ほら、言ったろ?」
案の定、彼は小石に躓いて地面に突っ伏した。
やれやれと歩み寄る。
少年に手を差し伸べようとしたとき、
ひとつ、鼓動が大きく聞こえた。
「――っ」
目の前に、違う光景が重なる。
広がる紅、その中心に倒れる少年。
周りには、傷ついた少年の仲間達が横たわる。
僕は何を見た?何が起こった?何をした?

これは僕がやったこと?

全ての答えは、既にあった。
「クジャ?おい、大丈夫か?」
だが、口にするのも億劫で。
「…なんでもないよ。それより、キミだ。大丈夫かい?」
「あ?ああ…全然平気」
「もうすぐ城に着くよ。怪我しないようにしないと、依頼を受けられなくなるからね」
何より、この少年に知ってほしくなかった。
知ったら、彼はどう思うだろうか。
傷ついてしまったら――。
そこまで考えて、ふと、気付いた。
今、自分は何を気にしていた?
少年を、傷つけたくない?
『…まさか』
気付かれないように、自嘲した。
傷つけたくないなんて、到底叶わぬ願い。
いずれ自分が加害者になるというのに…。


「遠くからでも充分すごかったけど、やっぱ近くで見るともっとすげえなぁ…!」
城に着いた二人は、依頼者の用意が出来るまで、待ちぼうけを喰らっていた。
待ちぼうけ、といっても、ただつまらない時をもてあますことはなかった。
立派に育っている薔薇を見てまわる。
「綺麗に咲いてるね。随分大切に手入れされているみたいだ」
全ての花に、葉に日の光が届くように植えられ、整えられている。
城壁を覆うほどの薔薇をここまで管理するとは、育てている人は相当の力量だ。
「そうだ、クジャ。"桜"って知ってるか?」
真っ赤な薔薇の香りを楽しんでいたジタンが、思い出したように問う。
「桃色の綺麗な花でさ、大昔には咲いてたけど、今はもう全部枯れてなくなっちまったんだって」
「ああ…それなら確か、古い歴史書で見たよ。…それがどうかしたのかい?」
その隣に並んで、クジャは首を少し傾げた。
「いや、ここにある花も充分綺麗だと思ったけど、歴史書があんまり綺麗綺麗っていうから、今も咲いてればなー…って思っただけ」
蒼の瞳が、愛しげに細められた。
「そうかい。…まあ、その意見には僕も賛同するよ。一度、見てみたいと思う」
咲き乱れる桃色。
枝から離れてもなお、絨毯として地を彩る美しい花。
その色に囲まれ、埋もれ、刹那の時に包まれたいと思った。
「皇帝陛下のご準備が整いました。どうぞ、お入りください」
背後から、城の召使の声が聞こえた。
「はーい。…行こうぜ、クジャ」
「さて、皇帝様の探している人やいかに、ってね」
二人は赤絨毯に導かれ、玉座の間に向かった。


ただ広い部屋に、玉座がひとつ。
そこに腰掛ける依頼主――皇帝は、切れ長の眼で冒険者を見据える。
「…お前達が、私の依頼を受ける冒険者か」
「ジタンだ」
「クジャ。…よろしく、皇帝様」
自己紹介を聞きながら、皇帝は足を組みなおし、膝の上に手を組んだ。
「早速だが、依頼内容を説明する。人探しということは知っているだろう」
「ああ。依頼書に書いてあったからな」
「あのパラメキア皇帝が人探しを依頼してきたから、驚いたよ。人間を虫けら扱いするって聞いたけれど、違ったのかな?」
「…違わないな。だが、今回は特別だ」
玉座の横に置かれた花瓶から一輪、薔薇を抜き取る。
「城壁を覆うほどの薔薇を見ただろう。あれらを育てている青年――フリオニールがいなくなったのだ。私自ら捜索したいところだが…皇帝とは名ばかりではないのでな。暇ができない」
微かに悲しげに瞼を伏せ、皇帝は薔薇の花弁を撫でた。
それこそ、愛しい人に触れるように。
「フリオニール…そいつのこと、大切なんだな」
ジタンが言うと、皇帝は笑った。
薔薇を花瓶に戻し、冒険者に向き直る。
「大切?馬鹿を言うな。奴は、私がどれだけ奴の望むものを与えても揺るがなかった――故に、手に入れたいだけだ」
皇帝が手を打ち合わせると、召使が箱を持って現れた。
箱の中には、フリオニールの写真と、加工された二輪の花が入っていた。
「…これは?」
クジャが花を一輪手に取る。
どうやら、耳に掛けるようにして装備できるようだ。
「それは"ひそひそう"だ。何か情報を得たらその花に伝えろ。それが、ここにある私の"ひそひそう"に伝わってくる」
「連絡用の端末ってことか。よし、皇帝、オレたちに任しときな!」
「すぐに見つけてきてあげるよ。キミの求め人をね」
クジャとジタンは、"ひそひそう"と写真を受け取って、城を出た。


『機械化進行度――12%』
『異常無し、異常無し』
暗い、洞窟の中。
無機質な声が静かに響いていた。
「う……」
無機質の中央に、ひとつの生命反応。
それはこの場から逃げ出そうともがくが、壁から延びるコードの束がそれを許さなかった。
「…マティウス…」


城下町は、売り子達の声で賑わっていた。
道に並ぶ露店では、野菜や花など、多種多様な物の売り買いが行われていた。
「さて、まずは情報を集めないとね」
とりあえず中央広場の噴水の縁に腰掛け、クジャが言った。
ジタンは周りを見回し、何かを見つけたかと思うと、微笑んだ。
「オレに任せときな!情報収集は得意だぜ♪」
彼は小走りで露店の方へと向かう。
その先には――花売りの女性。
「そこのレディ、ちょっといいかい?」
「ん?どうしたの?」
「この辺りで、こんな人見なかった?」
フリオニールの写真を見せると、女性は首を傾げた。
桃色のリボンで結わえられた長い茶髪が揺れる。
「見なかった、かな。ごめんね」
「そっか…。ありがとな。お礼に今度お茶でも奢るよ」
「ありがとう。でも、遠慮しとくね」
優しい微笑みで申し出を断られた。
ジタンは癒されながらもショックを受けて、苦笑いを浮かべたまま立ち去ろうとした。
しかし、女性は彼を引きとめた。
「人探しなら、今、そっちのお店に、いろんなところを旅してる人がいるの。聞いてみたら、わかるかも」
「そうなのか?わかった。そっちに聞いてみるよ!ありがとな!」
手を振ると、女性も手を振って返してくれた。
女性に教えられた方向に向かってみると、露店の列が途切れた辺りに、黄色い鳥――チョコボの頭が見えた。
回り込んでみると、チョコボに寄りかかって昼寝している人物が、ひとり。
「――バッツ!!」
その名を呼ぶと、バッツと呼ばれた人物は目を覚ました。
「ジタン?ジタンじゃないか!!久しぶりだな!」
「お前何処まで旅してたんだ?何年も会わなかったからてっきり…」
「おいおい!生きてるよこの通り!!」
ひとしきり笑って、ジタンはフリオニールの写真を取り出した。
「今人探しの依頼を受けててさ。何か知らないか?」
「フリオニールじゃないか!人探しって…フリオニールを探してるってこと?」
「そうだけど…知り合い?」
「ついこの間会ったばかりだよ。のばらが大好きな奴でさ、相変わらずだったけど…」
バッツが頬杖をつきながら唸る。
しばらくして、思い出した!と手を叩く。
「この街には三日前に帰ってきたんだけど、その時フリオニールが血相変えて走ってくのを見たな。何かを追いかけてる感じだったっけ」
「どこらへんに向かっていったかわかるか?」
「確か…あっちの"機械洞窟"があるほうだったはず…でも、"機械洞窟"周辺は立ち入り禁止区域なんだ。あいつが、そういうの破るとは思えないけど…」
「何かを必死に追いかけてたら別だな。――ありがとな、バッツ。助かったぜ」
手を振って中央広場へと向かう背中に、バッツは伝える。
「行くんだったら気をつけろよ!廃棄された戦闘用機械がうじゃうじゃいるらしいからな!!」


中央広場に戻ったジタンは、バッツから聞いた情報をクジャに伝えた。
「"機械洞窟"ねえ…厄介なことになりそうだ」
「なんで?」
「そこにいるのは戦闘用機械だろう?戦闘用ってことは特殊装甲で作られてるに違いない。」
「なるほど…物理攻撃もだけど、魔法も効くかどうかってところだな」
「まあ、依頼だからね。なんとかしてこなすしかないよ」
策が無いわけでもないしね、とクジャは外門に向けて歩き出す。
「ようは、物理攻撃でも魔法でもなければいいってことだ」
ジタンの呟きに、クジャが首を傾げる。
「どういうことだい?」
「策を思いついたってこと」
無邪気に笑う少年は、人込みをすいすいと歩いていった。


「…"機械洞窟"か。厄介なところに」
書物に向かい、紙にインクを走らせる皇帝の耳に、花から伝わった情報が届く。
「何故だ、フリオニール…何故、そんな所に行った…」


"機械洞窟"前。
立ち入り禁止と書かれた紐を乗り越えて、クジャとジタンは洞窟の前に立った。
「なあ、こっちは普通の土…だよな?」
入り口付近の茶色い部分を指して、ジタンが問う。
「そうだね…でもこっちは完全に機械だ」
土の壁に、機械が這っている。そんな感じだった。
機械の蔦は奥に行くにつれて太くなっている。
おそらく、最奥の方は完全に機械と化しているのだろう。
「これは…かつて戦闘用機械に備えられていた"機械化"の能力によるものだろうね」
「"機械化"って、あらゆるものを細胞レベルで機械に変えていくとかなんとか…それか?」
「その通り。もし僕らの探している彼が戦闘用機械に捕まっていて、この洞窟の最奥のほうにいるとしたら――急いだほうがいいだろうね」
戦闘用機械が、侵入者を敵とみなし、"機械化"をしている可能性が大いにある。
既に中枢神経をやられていたらもうどうすることもできない。
「そいつはヤバイな…!急ごうぜ、クジャ!!」

二人が洞窟の中に入り、灯りを点けようとした時、
「――!?」
洞窟内に警報が鳴り響き、壁に付けられた照明が一気に点いた。
多くの耳障りな足音が近づいてくる。
「――ずいぶんと豪華なお出迎えのようだよ」
「そうだな。あーあ…これが可愛い女の子なら喜んで迎えられるのに」
ジタンが手首をまわし、指を鳴らす。
「そんなことを言うくらいだ。対抗する自信があるようだね?」
「言ったろ?策が思いついたって」
「そうか――じゃあ、僕はその策が行き届かなかった余り物を一掃してあげよう」
クジャが指を弾いて鳴らす。
身に纏っていた服が形を変え、無機質な機械へと転換された。
長い銀髪は二房に纏められ、先にはユニットが装着されている。
"強制職業変換"――機械人間(アンドロイド)だ。
全ての変換が終了すると同時に、二人のいる空間に戦闘用機械がなだれ込んできた。
「クジャ!右半分はオレ一人で余裕だ!左半分頼む!」
「了解!」
ジタンが右方向へ走り出し、クジャは左を向いた。
髪に装着されたユニットの側面からターゲットゴーグルが飛び出し、クジャの目の前で滞空する。
右腕を戦闘用機械に向かって突き出し、左手を添える。
『ターゲット捕捉。ターゲット数把握完了。』
手首付近のアーマーが横に長く展開し、力が蓄えられる。
『出力75%。全ての稼動部破壊可能。』
「さあ、キミ達をこの牢獄から解き放ってあげよう」
凝縮された力が一気に放出された。
力は蜘蛛の巣のように目を張り、捕捉した全ての戦闘用機械の稼動部を貫いた。
機械たちは痙攣したようにニ、三回震え、崩れ落ちる。

「すげえな…一発かよ」
展開したアーマーが元の位置に戻る頃、ジタンが駆け寄ってきた。
その両腕には、機械の稼動部の部品が抱えられている。
コードの千切れ方からして、おそらくそのまま抜き取ってきたのだろう。
「…野蛮だねえ」
「盗むの応用さ。臨機応変って言ってほしいね」
得意そうに笑って、ジタンは奥に向かって歩き出した。

辺りの壁は、もう完全に機械と化した後だった。
最奥の空洞には、大きな機械が幾つも立ち並んでいる。
その先、コードが何百本も束ねられて形を成している柱の中腹に、人の姿があった。
「いた!あれがフリオニールだ!」
ジタンが駆け出す。
遠目に見ても、フリオニールが衰弱している様子がよくわかった。
一刻を争う事態になっているかもしれない。
早く解放してやろうと一目散に向かうが、クジャに手を引かれて部屋の中央辺りで止まる。
「クジャ――」
「伏せろ!!」
言うが早いか、クジャの腕のアーマーと髪先のユニットが展開する。
瞬間、あらゆる方向から光弾が二人を襲った。
アーマーとユニットの装甲が開き、そこから溢れる粒子がシールドを作り、光弾を弾いた。
しかし、咄嗟に展開されたそれは、背後までカバーしきれなかった。
クジャがそれに気付き、シールドを背後にまわそうとした時、
「――はあっ!!」
至近距離で、光が弾けた。
光弾も、それと共に弾けて消える。
「けほっ……クジャ、大丈夫か?」
「ああ…」
砂煙に少しむせる少年を肩越しに見る。
フリーエナジー――今ジタンが放った技だ。
咄嗟にその技を出せるとは。
どうやらジタンの力を過小評価していたようだ。
「助かったよ、ジタン。でも――安心してはいられないようだ」
二人が通ってきた道や立ち並ぶ大きな機械から、次々と戦闘用機械がなだれ込む。
戦闘用機械のアーム部分に電力が集中する。
おそらく、それをこちらに向けて発射するつもりなのだろう。
光弾の雨を防いだ直後でシールドの再展開は間に合わない。
これだけの数の電力が放出されるのだ、フリーエナジーで防いでもらうことも不可能だろう。
なら避けるか。
しかし、後ろにはフリオニールが磔にされている。
避けたならば、機械たちの攻撃は彼に直撃するだろう。
考えている間にも、電力の充填が終了する。
成すすべなく、防御体勢に入る。
それで電撃が防げないことはわかっていた。
しかし、それしか思いつかなかった。
放たれたまばゆい光に、目を瞑る。

「目障りだ。――消えろ」

低く響いた声に目を開くと、足元には大きな魔法陣。
床全体を覆うほどの大きなそれから、強力な電撃が放たれる。
それはクジャとジタンを避け、戦闘用機械だけを破壊した。
「――皇帝!」
入り口の方を見ると、そこには依頼主である皇帝が立っていた。
「ようやく暇を作れたのでな。――話は後だ。フリオニールを」
短い返事をして、ジタンはコードの束をよじ登り、フリオニールを拘束するそれを断ち切った。
ぐったりとして動かないフリオニールを、クジャが一瞥する。
「…予想通り、機械化が進んでる」
「何だって!?」
彼が行方不明になってどれくらいの時間がたったかはわからない。
しかし、もしもう手遅れの状態だったら…。
「…助かるのだろうな」
皇帝がフリオニールの顔を覗き込む。
双眸は、苦しげに瞼に覆われていた。
「僕に任せてくれ。彼の身体から機械を抽出する」
クジャのユニットから何本もの細いアームが現れる。
「ジタン、さっき機械たちから引き抜いた部品を貰うよ」
足元に散らばる部品を、アームが回収する。
取り込まれたそれは形を変え、ユニットとフリオニールの腕を繋ぐ。
『対象確認。機械化進行度42%。中枢神経異常無し。抽出成功率99%』
「抽出、開始する」
ユニットのメーターに粒子が蓄積されていく。
すぐにメーターは一杯になり、抽出が終了した。

「う……」
しばらくして、フリオニールが微かに動いた。
ゆっくりとその瞼が開かれる。
「目が覚めたか」
皇帝が声をかけると、彼は横たわったまま首だけ動かしてそちらを見た。
「…皇、帝…?ここは…?」
「"機械洞窟"だ。ここは立ち入り禁止区域に登録されている。だが貴様は勝手に入り込んだのだ。…憶えていないなどとぬかすなよ?」
「…憶え、てる」
フリオニールは目を伏せた。
「…何故、このような所に足を踏み入れた」
問うが、答えは返ってこなかった。
彼はそっぽを向いて、こちらを見ない。
「フリオニール」
「取り返そうとしたんだ」
答えを吐かせようとした時、彼は口を開いた。
ずっと結んでいた右手が開かれると、そこには薔薇の花を模したブローチがあった。
「近くの森にいたら、ムーに盗られて…追いかけてたら、此処に」
「それは…」
「そうだよ。お前に貰った…のばらの、ブローチ」
城の薔薇の世話をするようになって、しばらく経った頃。
お前のために作った、と初めて渡された贈り物。
豪華すぎるし絶対つけないと言ったが、毎日密かに持ち歩いていた。
今まで、恥ずかしくて言えるわけがなかったけれど。
頬を紅潮させるフリオニールを見て小さく微笑んだ皇帝は、そのブローチを受け取った。
そしてフリオニールのマントに続く首周りの布を捲って、真ん中辺りにそれをつける。
「これなら外に見えない。盗られることもないだろう――こうしていろ。いいな」
「…仕方ないな」
きゅ、と布越しにブローチを握ると、フリオニールも小さく微笑んだ。

クジャとジタンは、立ち並ぶ大きな機械を見ていた。
「これ…全部止まってんだな」
「おそらく、さっきの皇帝の攻撃でお陀仏だろうね」
巨大な雷の紋章。
それはそこにいた戦闘用機械たちを破壊しただけでなく、機械たちを生産する元も絶った。
思い返しても、すさまじい威力である。
「皇帝もすげえけど…クジャ、お前もやっぱ強いな」
ふと、ジタンが呟く。
「変換者って、みんなそんなに強いのか?」
「さあね…他の変換者にあったことがないし、その状況にあった職業に変換すれば、大概勝てるよ。」
クジャは隣に立つジタンを見やる。
「それに…キミのほうが強い」
「ん?何か言ったか?」
「いいや。何も…」
咄嗟に大技を出した。
何より、暗い過去を背負いながら、明るく振舞い、強く生きる。
そこだけが、自分と彼の違いだった。
『知らなくて良い…』
嫉妬してしまうほどの、決意の輝き。
それだけが、大きな違いだった――。


「――報酬だ。受け取れ」
皇帝が小さな宝箱を差し出す。
受け取って、ジタンはフリオニールを見た。
「もう大丈夫なのか?」
「ああ。きみたちのおかげで助かったよ。ありがとう」
すっかり顔色も良くなった彼は微笑んだ。
その笑顔に安堵の息を漏らし、ジタンも微笑んだ。
「今度からは気をつけろよ?大切な人からの贈り物を取り戻すときでもな」
「ど、どうしてそれを……っ!?」
さっきは離れていて聞こえなかったはず、とフリオニールは再び赤面する。
「あれ?当たりだった?カマかけただけなんだけど」
意地悪く微笑むと、その顔はさらに赤くなった。
ひとしきり笑って、クジャとジタンは二人と別れた。




うぼのば…なんだか平和な感じになってしまったorz←
いや、いいんですけど、もっとヒドイ皇帝がかきt(自重)
やりたかったのはクジャの攻撃と機械抽出のくだりです。
『~%』とか『対象確認』とかカッコいいと思うのです!!だから無理矢理やらせてしまった(爆)
次はスコティのターンですかね…?
そろそろ物語に一悶着起こさないと←
頑張ります!

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