課題無事終了いたしました!
これで心置きなくパソコンとゲームとプラモ作りができる(ノ>∀<)ノwww
今友達からFFⅨを借りて進めています。
やっとこさDISC3までいったあたりです。クジャと銀竜に見惚れてます(←)
にしてもジタンが可愛すぎる…!!
最終戦には誰を連れて行くか今から悩んでおります(←早)
さてさて、捏造DF/F小説、二話目できました!
登場人物がもっさり増えました(笑)続きからどうぞ♪
Ⅱ
「変換の星――黄金の太陽――」
金髪の詠剣士が、城内のバルコニーで空を見上げている。
部屋の奥から、漆黒のマントを翻し、城の主が詠剣士を見やる。
「変換の星、か…刻が近づいているようだな」
「とき刻って…世界が無に呑まれる、改変の刻のこと…?」
その隣には、決して闇と交わることの無い白をたたえた聖騎士。
「そうだ。全ての職業は力を失い、人々は抗う術を奪われ、命を奪われ、世界は創り変えられる」
「そんなの…御伽噺の世界だと思ってた」
聖騎士は憂いを帯びた双眸を瞼で覆う。
「…残念ながら、現実だ」
大きな窓を後ろ手に閉め、詠剣士は部屋へと戻って来た。
竜喚士と聖騎士の向かいに置かれている椅子に腰掛けて、その瞳を、聖騎士と同じように覆う。
「こんな厳しい現実を視て――人々に知らしめて、惑わす。惑う人々も救えず、ただその刻を受け入れることしかできないのなら…俺は、最後の詠剣士は…何のために此処にいるのだろうな」
「哀しむ必要は無い。そなたがいなければ、私達は御伽噺の世界でただ睡魔に導かれるままに眠ることになっていただろう」
「クラウドのおかげだよ。少なくとも僕と兄さんはその睡魔の存在を知れた」
「しかし…いくら上級職業だとしても、力を失ってしまったら…ただの飾りだ」
詠剣士――クラウドは、すっかり冷めた紅茶を見つめる。
「もし御伽噺が現実なら…この世界の現実も、御伽噺の筋書き通りなんじゃないかな。御伽噺の最後には、伝説の職業――最上級職業の"守護陣師"と"侵攻王者"が世界を守ってくれたじゃないか」
「だが――」
「彼らを見つけることは叶っていない――しかし、それはそなたの所為ではない」
竜喚士は夜空に浮かぶ月を見つめた。
「懸けようではないか――残された短い時に。二つの星が、私達の前に現れることに」
今夜はもう遅い。
竜喚士は聖騎士を部屋に戻らせ、自身も部屋へと向かう。
「ゴルベーザ」
クラウドの声に、竜喚士――ゴルベーザは振り返る。
「セシルには教えないのか?変換者と二つの最上級職業の関係を――」
聖騎士――セシルの部屋の方を見やってから、ゴルベーザは言う。
「酷すぎるだろう――知らぬままでいい…犠牲を払わずに手に入る平和がないことなど」
「それもそう、か…」
セシルは信じている。
救世主がどこからともなく現れ、神のように災いを退け、去っていくことを。
だが、それは違う。
救世主はどこからともなくやってくるものではないのだ。
彼らが現れるのに、変換者の存在は不可欠。
「…でも」
クラウドは外を見る。
星が、先程より少しだけ首を傾げていた。
「酷以上に――今は、もっと恐れる事態だ」
「何?」
「変換の星が――赤き星と交わろうとしている」
他の星すら喰らおうとする、狂気の星。
「そしてそれは――黄金の太陽に近づいていっている」
「…喰らおうというのか」
「まだ完全に交わっていないから、何とも――。ただ、手を打っておく必要はある。もし赤き変換の星に変わってしまったなら――それこそ、世界を終わらせる災いだ」
クラウドはモニターフォンを取り出して、打つべき手を打った。
声が聞こえる。
逃げ惑う、人々の声。
魔物に殺される、人々の声。
目の前には、傷ついた仲間の姿。
血の匂いがする。
ただ仲間の変わり果てた姿を見つめて、立ち尽くしていた。
これは、何。
憶えている。
忘れるはずが無い。
これは、
これは、過去。
仲間は、オレを庇って、攻撃を喰らった。
無力だったから。そのくせ、自分の力を過信して突っ込んだから。
あのときのオレを許して欲しい。
…許す?
一体、誰が。
目の前の仲間が起き上がる。
口の端から流れ出る血は、もう黒ずんでいた。
「許せるわけないだろう」
「―――っ!!」
目を開けると、そこには先ほどまで見ていた惨状はなかった。
体が、汗でぐっしょりと濡れている。
「大丈夫かい?」
その声に首を傾けると、やや上のほうにクジャの心配そうな顔が見えた。
「クジャ――」
「ずいぶんうなされていたよ。嫌な夢を、見ていたんだね?」
細い指が、優しくジタンの頬を撫でる。
汗で額に吸い付いた前髪も、優しく払われた。
「夢…」
呟くと、あの惨状が、脳裏に蘇った。
思わず、クジャの服を掴む。
震えが止まらない。
ただの夢なら、こんなことにはならないだろう。
でも、
夢じゃない、
夢じゃないんだ。
あれは現実にあったから。
今にも溢れ出しそうな叫びは、しかし、溢れることはなかった。
「大丈夫」
クジャの腕がジタンを引き寄せ、包み込む。
髪を撫でる手は、やはり優しかった。
「僕が、キミを守ってあげるから」
「クジャ……っ」
変換者は、ただただ、小さな小鳥を包んだ。
その一言一言に魔力が篭っているように、ジタンの震えが止まっていく。
「もう一度、眠るといい…。起きたとき、キミは今の夢を忘れているだろう…」
クジャが耳元で囁いた。
その旋律に、ジタンの意識は静かに眠りへと導かれていった。
ねえ――
キミは一体何を信じて生きている?
太陽が真南に見える頃、ジタンとクジャは街に着いた。
農村、といった風の雰囲気に似合わない建物――ギルドは村の外れにあった。
「依頼はオレが自由に選んでいいんだろ?」
「ああ。約束だからね」
軽いやり取りをしながら、ギルドの扉を開ける。
中は、静かな村とは一転、多くの人々でひしめきあっていた。
どこのギルドも依頼を探す冒険者達が集まっていて混雑しているのは変わりないが、今日は何だか違っていた。
いつもの歓喜や談笑の声ではない。
恐怖や不安をたたえる、どよめき。
「何かあったのか?」
ジタンが、近くにいた赤い鎧の少年に訊ねる。
少年は振り返って、説明を始めた。
「西のほうに大きな城を構えてる竜喚士は知ってるだろ?その竜喚士がドラゴンの保護をギルドに依頼してきたんだ」
「別に珍しくないことだね。どうしてこんなに騒ぎになっているんだい?」
確かに、ドラゴンの保護の依頼自体、珍しくも何とも無い。
最近、金稼ぎが目当ての性質の悪い狩人の乱獲により、ドラゴンの数が減ってきている。
ドラゴンと友好関係を築き上げ、その力を借りる竜喚士にとって、由々しき事態であった。
迅速に保護を進めるため、竜喚士たちは冒険者にも協力を仰いでいるのである。
それがどうしてここまでの騒ぎになっているのか。
「ドラゴンが、暴れてしまっているの」
少年の後ろに立っていた、彼のパーティメンバーと思われる少女が、悲しそうに紫の瞳を伏せた。
「ドラゴン自体は、元々気性が荒くない種類なんだけど、どうも様子がおかしいらしいんだ」
「依頼を受けて保護に向かった人たちが、何人も犠牲になってる…あなたたちも、気をつけて。ドラゴンだけじゃない…嫌な予感がするの」
「嫌な予感?」
ジタンは首を傾げた。
「世界に大きな災いが迫っている…そんな気がする」
「ティナ、大丈夫。ティナは僕が守るよ」
恐怖に震えるティナの手を、少年が優しく握った。
「僕たちはこの依頼を受けないで他を当たってみる。きみたちも依頼を受けるときは気をつけて。僕はオニオンナイト。またどこかで会えたら、よろしく」
オニオンナイトはティナの手を引いて、ギルドを出て行った。
その姿を見届けてから、ジタンはクジャのほうを向く。
「大きな災い…何のことだろうな」
「さあね。彼女の予感が的中するとも限らないし。…でも、僕もドラゴン保護の依頼を受けないほうが良いとは思う「お姉さん、ちょっと依頼書見せて」「ジタン、僕の話を聞いているかい?」
依頼書を受け取ったジタンは、それに目を通しながら言う。
「誰かを助けるのに理由がいるかい?みんな困ってるみたいだし。それに、受ける依頼はオレが決めて良いって約束だろ?」
潔すぎる彼の決断に、ある種の感動と呆れが混ざった溜息が零れる。
諦めて彼の持つ依頼書に視線を移す。
依頼人は竜喚士・ゴルベーザ。
ランクはC。元々気性の荒いドラゴンではないと言う話を考えると、妥当なランク付けだろう。
報酬もそこそこ高価で、腕に覚えのある冒険者なら挑みたくなる依頼だ。
「ゴルベーザ…彼は聖騎士と詠剣士を従えていることで有名だね。世界についての知識もそこいらの研究者に劣らないと聞いている。人々のことを思う気持ちも国王並だというし、ここまでの騒ぎなら彼自身が駆けつけてもよさそうだけど…」
「何か手が離せないことでもやってんじゃねえの?保護を依頼したとき、こんなことになるなんて思わなかっただろうし」
依頼書にサインをして、ジタンは受付に差し出す。
「この依頼、受けてやろうぜ。さっきのティナって子の不安を、みんなの不安を少しでも和らげるために」
「危険な依頼だよ。下手したら、死んでしまうかもしれない」
クジャが圧力をかけてみるが、ジタンの気持ちは揺るがなかった。
「オレは死なない。それに、お前もオレの前で死なないだろ?」
光を失わない瞳に、今度は微笑みの溜息をひとつ。
「もちろんだよ。約束だから」
二人は、保護依頼対象のドラゴンがいる洞窟へと向かった。
夜の風は、枯れ果てた涙たちを運び、
涙たちは、感情を殺す詠剣士の元に辿り着く。
その瞳に映るは、幾千、幾万の星。
「…名指しで依頼か、クラウド」
暗がりから声が届く。
クラウドは、眼下に広がる森から眼を離さなかった。
「あんた達にしか頼めない。それに…あんたなら、完遂してくれると思った。」
「…どういう意味だ」
「スコールならどんな依頼でもこなせるってことじゃないッスか?」
暗がりから、ボールがひとつ、転がってくる。
それを拾いに、金髪の青年が姿を現した。
球戯士・ティーダだ。
ティーダを追いかけるように、スコールと呼ばれた銃士も姿を現す。
す、と二人の前に一枚の写真が差し出された。
「護って欲しいのは、この少年だ」
その写真を見た途端、スコールの眼が大きく見開かれた。
「こいつに…何が迫っている」
「言ったところで、あんたに理解できないさ」
クラウドは物鬱げな瞳で、再び運命の星を見つめる。
「護りきれるだろう?…それとも、もう愛想が尽きたか?」
依頼を受けるか受けないか、答えは二つだけ。
ティーダには二人の会話が何の意味を含んでいるか理解することはできなかった。
自分の知らない何か。
それについて二人は話している。
自分とスコールが会ったのはつい最近だ。
知らないことがあってもそれは仕方の無い話である。
でも、解っていながら、ティーダは胸につかえる黒いもやを取り払うことはかなわなかった。
「…今度こそ、護ってみせる」
スコールが口を開いた。
「それが、俺の答えだ。クラウド…」
詠剣士の手から写真を受け取ると、スコールは再び暗がりへと消えた。
今度はティーダがその後を追う。
「なあ、スコール。それってさ…その…誰?」
思い切って聞いたが、答えは返ってこなかった。
「スコール、あの、さ……」
言葉が、途切れてしまった。
聞きたいことは山ほどあるのに、口が思うように動いてくれない。
何がそうさせているのか、いつか聞けるときがくるのか、わからなかった。
ただ、悲しそうな銃士の横顔を見つめ、ティーダはひとつ、ボールを蹴った。
「また、か…」
クラウドは一人、呟いた。
詠剣士の生き残りとして未来を視るようになってから、人との会話が思うようにいかない。
世界の運命を知って、自分の力の小ささに絶望し、自嘲する。
わざと相手を挑発してみたり、気に障るようなことを言ってみたり、穏便な話し合いができなくなっている気がする。
こんなことが言いたいわけではない。
こんなことをしている場合じゃない。
なのに、自分から何かを変えられる力があるとは、到底思えなかった。
せめて、
せめて、道しるべがあったなら。
「――ならば、私が導いてやろう」
空から声が降ってきた。
忘れるはずが無い、聞き覚えのありすぎる、声。
「セフィロス――!!」
導剣士・セフィロス。
幾度となくクラウドの前に現れ、彼を導こうとしてきた。
導剣士は他人に道を示す者である。
しかし、示す道が光の道とは限らない。
時には、闇の道――法や秩序に反する道に導く導剣士も存在する。
セフィロスは、まさしく闇の導剣士だった。
漆黒の背景に、銀色の髪が揺れる。
「道しるべが欲しいのだろう?」
細く、嫌なくらい綺麗な指がクラウドの顎を持ち上げた。
そこいらの人ならば見惚れてしまうであろう端麗な顔を、クラウドは見ようとしなかった。
どことも無い方に、視線を投げる。
目を合わせてはいけない。
声を聞いてはいけない。
何も考えてはいけない。
「私に全てを委ねろ」
この導剣士は、
「お前をその地獄から救ってやろう」
いとも容易く入り込んでくる。
クラウドは全てを拒絶するように努めた。
ここには、自分以外の何もない。
声も、音も、光もない。
目を閉じたとき、今までに感じなかった温度を感じた。
「――っ!!」
認識してしまった。
全てを拒絶していたのに。
入り込まれないようにと、全てを。
「放せ――っ!」
どれだけ暴れても、温度は揺るがなかった。
これでは、入り込まれてしまう。
冷えた身体には、心には、熱いくらいの温度。
わからなかった。
どうして闇の導剣士が、自分にこんな温度を与えるのか。
騙すため、闇の道に導くため、
どんなに考えても、違う気がした。
導剣士は、詠剣士の金糸に、口付けをひとつ。
「迷ったら、私を呼べ」
まるで初めからそこに何も無かったかのように、感触を残さず、離れていく。
「お前を導くのは――私だ」
森の奥深くに、ドラゴンの棲む洞窟はあった。
ここまでの道程はそんなに厳しいものではなかった。
「何か、街の騒ぎが嘘みたいだな」
「そうだね。…ここに来るまで起こったことといえば、今キミが髪を木に引っ掛けてるくらいだし」
「うるせーよ。つか、大体オレの髪が引っかかって、何でお前の髪が引っかかんねーんだよ!」
「あーほら、暴れるんじゃないよ。もう少しで解けるから、我慢してくれ」
言うが早いか、金糸はするりと木の枝から滑り落ちた。
「…さんきゅ」
ジタンは口を尖らせ、それだけ言うと、さっさと歩き始めた。
「照れ屋さんだねぇ」
「誰がだっ!!」
洞窟の入り口に立ち、松明に灯を灯す。
「やけに静かだな…本当にドラゴンが暴れてるのか?」
こういった洞窟に棲むのは、大概身体の大きなドラゴンだ。
それが暴れているなら、最悪洞窟自体が崩れていてもおかしくは無い。
しかし、崩れるどころか、洞窟は全ての音を消し去ったように静かだった。
ジタンが辺りを見回していると、少し奥の方を覗き込んでいたクジャが振り返った。
「嵐の前の静けさ……ともいうよ?」
彼の親指が指し示すのは、視界が開ける洞窟の広場。
その奥、たった今自分達の姿を捉えた、ドラゴン。
大きな口の端から、炎が覗く。
「――まずい!!」
クジャはジタンの手を引き、間一髪岩の陰に滑り込んだ。
土煙に紛れたのか、ドラゴンは二人を見失ったようだった。
「…やっぱ、怒ってたみたいだな」
「それも相当、ね。見境なしに襲ってくるとは思わなかったよ」
ず、と地面から振動が伝わってきた。
ドラゴンが動き出したのだ。
悠長に休んでいる時間をくれる気は毛頭ないらしい。
「依頼内容があくまで保護だからね…あまり傷つけるわけにはいかない」
「じゃあどうしろってんだよ?このままじゃオレたち、二の舞だぜ?」
足元の焼け焦げた衣服を指差し、ジタンは言う。
おそらく、同じように依頼を受けてここへ来た冒険者のものなのだろう。
「…今から僕があのドラゴンを召喚石に封印する」
クジャが岩陰からドラゴンを見つめた。
「召喚石に封印って…そんなことできるの、封晶師しか――」
いない、と言おうとして、口を噤んだ。
不敵な微笑みがジタンを射抜く。
何も言わせない、圧倒的な空気。
思い出した。
この男は、
「ジタン、僕は変換者だよ」
理すらも凌駕する、自在の職。
彼が指を弾いて音を鳴らすと、身に纏っていた服が形を変えた。
髪がひと房三つ編みに結わえられ、手には透明な石。
先ほどまでの高魔術師はそこに居ず、代わりに封晶師が立っている。
これが、"強制職業変換"――。
「詠唱が終わるまで、あいつの注意を逸らしておいてくれ」
「――わかった!」
ジタンが岩陰から跳び出す。
ドラゴンはすぐに反応し、長い首でその姿を追った。
しかし、盗賊のトップに立つその素早さに、全てついていけるはずがなかった。
「鬼さんこちら!」
素早い身のこなしで、襲いくる火球も難なく避けてみせた。
これなら、クジャの詠唱終了までドラゴンをひきつけられる。
頭の端でそう思ったのが、災いした。
「――後ろだ!」
クジャの声に振り返ると、長い尻尾が迫っていた。
勢いよく振りかぶられたそれは、真っ直ぐジタンに向かう。
跳び上がった直後だ。受身も取れないし、回避もできない。
時間が遅く感じられたが、襲いくる痛みに目を瞑ることもできなかった。
「ジタン――!!」
痛みが、襲ってくることもなかった。
紅いしぶきが飛んだ。
そのうちのいくつかが、頬に降る。
目の前には、自分を庇った、青年の姿。
「…さあ、暴れるのはやめて、僕の用意した優しい世界で眠るといい」
言葉が紡がれると、ドラゴンはクジャの持つ小さな石に吸い込まれるように消えた。
かたかたと数回揺れ動いたが、それもすぐに収まる。
召喚石への封印が成功したのだ。
透明だった石は、紅い光を発するようになった。
「任務完了だ。帰ろうか、ジタン」
クジャが振り返った、その時。
「あ、あぁ…っ」
苦悶の声が、聞こえた。
「…いや……だ…っ…!」
ジタンが頭を抱え、崩れ落ちる。
「ジタン!?」
駆け寄ってその小さな身体を支えるが、彼の震えは止まらなかった。
苦しみの声が木霊する。
すっかり青ざめてしまった頬に手を伸ばそうとしたとき、嗚咽に混じり、言葉が紡がれた。
「いや――!スコール…スコール……っ!!」
彼の口から零れ落ちた名に、クジャの手が止まる。
スコール…?
そんな名前、どこかで…
どこか、とおい、
む か し に
「――ジタン!しっかりするんだ!!」
聞いた覚えなど、ない。
そう言い聞かせて、頭の中から雨の名を、胸の中から疑問を、追い出した。
「僕が此処にいる!」
目の前を、自分を、見て欲しい。
そこには、何一つ変わらない現実がある。
彼は、今、ここにあるものに悩まされてはいない。
それだけはわかったから。
「!ク、ジャ……」
やっと、ジタンの焦点がクジャに合わさる。
涙と汗で濡れた顔が、少しだけ安堵の色を見せた。
しかし、クジャの腕から流れ出る紅を見た瞬間、その色はすぐに消え失せた。
「クジャ、血が――」
「大丈夫だよ。大丈夫だから、落ち着くんだ」
潤んだ瞳に、恐怖が映らないように、クジャは空の色を手のひらで覆った。
「――答えたくなかったら、答えなくてもいい。キミは…何に怯えていたんだい?」
目の前の少年を、あんなにも変えてしまうもの。
それが一体何なのか。
どうしても聞かずにはいられなかった。
答えは得られないかと思ったが、しばしの後、少年は口を開いた。
「…昔、誰だかわかんねえ奴に襲われたことがあるんだ」
当時の仲間といたとき。
いきなり襲った悲劇。
惨状が広がり行く中、感情を抑えきれず、明らかな力の差も測らずに突進した。
本来なら、そこで命を落としていただろう。
今、生きているのは、庇ってくれたあの仲間のおかげ。
『――ジタン、逃げろ!!』
そう言って、オレの代わりに攻撃を受けた、一人の銃士。
赤い世界の中、意識を失ったのであろう。
その先のことは全く覚えていないが、その銃士が切り裂かれた瞬間だけは、鮮明に焼きついている。
「もう、嫌なんだ…オレを庇って、誰かが傷つくのなんて…」
あれほど苦しいものは無いから。
許されるなんて思っていない。
何が何だかわからなかったから、とか、言い訳は出来ない。
「だから約束させたんだ、お前に…オレの前で死ぬな、って…」
自分のことは、自分で守れ、と。
それは自分に言い聞かせたことでもあった。
もう誰も自分を庇うことなど無いように。
自分の所為で、誰かが傷つくことなど無いように。
「言っただろう?」
優しい感触が、頬を撫でる。
「僕は死なないさ。たとえ傷ついたとしても、キミの所為じゃない。」
抱き寄せた身体は、今にも指の間から零れていってしまいそうだった。
「僕は、キミを独りになんてしないから」
零れそうになる涙を必死で堪えて、ジタンはクジャの胸に顔を押し付けた。
「当たり前だ…約束は守ってもらう」
クジャが金糸を撫でると「うるせぇ」と振り払われてしまった。
「お疲れ様でした。報酬はカウンターでお受け取りください」
ギルドへ戻り、依頼完了を告げると、受付嬢は少し驚いた顔をした後、安堵の表情で言った。
やはり、ドラゴンが暴れているというのは冒険者にとっても恐怖なのだから、受付嬢のような一般の人にとっては相当なことなのだろう。
これで村の人たちの不安は取り除けた、とジタンはひとつ伸びをした。
「あの」
すると、横から声が聞こえた。
辺りを見回して声の主を探してみると、そこには少し古ぼけたマントを纏った黒衣の少女がいた。
「ゴルベーザ様の依頼を受けてくださった方達ですよね?」
「ああ。キミは?」
クジャが訊ねると、少女は慌ててお辞儀をした。
「申し遅れましたっ!私はゴルベーザ様にお仕えさせていただいてます、無洞師です。依頼の報酬をお届けにきました」
「無洞師?里の外の人間に仕えているなんて、珍しいね」
無洞師が、マントの下から取り出した小さな箱を受け取りながら、クジャは呟いた。
箱の蓋を開けると、青色に輝く宝石が収められていた。
「綺麗なラピスラズリだなぁ~…しかも結構大きい塊だし」
ジタンが盗賊らしく宝石の保存状態や質について分析しだす。
ラピスラズリは上等の宝石で、売れば高い値がつくし、宝飾品の材料にもなる。
もしドラゴンが暴走していなかったら、この依頼の報酬にしては豪華すぎるくらいだ。
それが密かに、ゴルベーザの持つ富を主張している。
これだけの富だ。それを目当てに近づく輩もいるだろう。
「でも、キミはこれが目当てじゃないようだ」
輝く瞳で宝石を見つめる少年に箱を預け、無洞師に向き直る。
無洞師は頷いて、少し照れくさそうに俯いた。
「ゴルベーザ様は…私を、見てくださいますから…」
「無洞師の体内に広がる無限の空洞ではなく、無洞師その人を見る…。なるほど。大きいのは富だけではないようだ」
無洞師という職業は、どんな大きな魔法でさえ飲み込む空洞を体内に持つと聞く。
その素質は一族の遺伝子にのみ組み込まれているため、ただの冒険者が無洞師になることはできない。
持って生まれた空洞は、無洞師をからっぽに見せる。
だから、人々は言う。
まるで心がないようで――気味が悪い、と。
しかし、目の前の子はからっぽには見えない。
それを知って自分の下に置いたのか、あるいは主が満たしたのか――…
いくら自分の中で問いを生まれさせようと、答えが返ってくるわけが無かった。
「保護したドラゴンはこの中だよ。ご主人様によろしくね」
召喚石を手渡し、クジャは軽く手を振った。
無洞師は小さくお辞儀をしてから、同じように手を振ってギルドから出て行った。
「…さて、明日も依頼を受けるんだろう?そろそろ宿に行って休もうか」
声をかけると、やっとジタンは手の中の宝石から目を離した。
「そうだな。…あー、でも、またあの夢見たら嫌だなぁ…」
「僕が手を繋いでいてあげようか?」
「いや、いい。遠慮しとく」
こうした何気ないやりとりに慣れたことに、二人は思わず吹き出した。
世界を揺るがす刻が、狂気の宿星が近づいていることも知らずに―――。
あとがき
もう…長くてすいません(汗)orz
セフィロスはもうちょっと後で出す予定だったのですが、なんだか出てきてもらっちゃいました(笑)
スコールとティーダも同じくw早く出してあげたかったんです…w
続きはちょっと遅くなるかもです(汗)だって…のばらが…(何)
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!
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